2018年06月26日 お知らせ

10周年記念懇話会第1部&第2部の詳報

試行錯誤の10年をあらためて振り返る

 「歩み」を小冊子とスライドで紹介

 

「CAP.N10周年記念懇話会」の第1部では、事前に参加者に手渡した小冊子「CAP.Nの10年 2008~2018 History calendar」をもとに「CAP.N10年の歩み」と題したスライドを紹介しました。 スライドは、時系列的に小冊子に記載した事業内容や出来事を引用しながら、創立時のメンバーが探し出した当時の写真等を組み合わせて作成しました。特に冒頭では、2008年8月19日の設立発起人会、同年9月3日の設立総会、同年10月3日の設立記念セミナーの写真も掲載され、旗揚げ時に特徴的な緊張しつつも熱気にあふれた雰囲気が醸し出されていました。 また、2013年から展開した「米粉の名人」料理グランプリ――全国米粉料理(レシピ)コンテストでは、4年間すべての地区決勝大会、全国決勝大会のグランプリ、準グランプリの料理写真、審査風景や審査員・表彰者の写真や各回の応募リーフレットを掲載、貴重な資料となっています。 このほか、2017年の事業である米粉の用途別基準ノングルテン表示「地方説明会」や「コメ・コメ加工品輸出特別支援事業」の海外プロモーションの活動も紹介、まさに設立から直近の事業まで積み重ねた10年の歴史を網羅しています。

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10年スライド集PDFマーク


 

 「グルテンフリー食材には米粉を使用」が多数

  欧米での市場を関係事業者・団体・機関など対象に調査

 

「記念懇話会」第1部では、「CAP.N10年の歩み」の紹介とともに「平成28年度コメ・コメ加工品輸出特別支援事業」の一つである「欧州3か国(ドイツ、イタリア、フランス)とアメリカでのグルテンフリー食品市場調査」についての結果が報告されました。

市場調査は、欧州では同支援事業の日本産米粉製品のPRなどを行ったプロモーション活動とともに並行的に取り組まれました。米国では、NY州での現地調査と全州を対象にしたメールや電話での聞き取りで行いました。質問票の回収数は、欧州60件で国別ではドイツ19、イタリア26、フランス15、米国は21件でした。

グルテンフリーの食材としては欧州の3か国とも、米粉が複数回答で23件

と最も多くコーンスターチ、タピオカ粉、そば粉、コーンフラワー等が続きこれらを配合して使用していました。使用米粉の産地別ではイタリアは、ヨーロッパ一位の米生産国となっていることもあり、主にイタリア産の米粉が使用されていました。他の2国でもイタリア産が使われていました。

米国ではグルテンフリー粉として米粉が複数回答で17件と優位に立ちそのほかコーンフラワー、ホワイトソルガム粉、そば粉等を使用していました。米粉産地はほぼ米国産で日本食材店以外では、日本産米粉や米粉加工品の取り扱い、使用しているところはありませんでした。

 

欧米とも米粉利用の理由は「グルテンフリーだから」

 

欧州の米粉の利用・取り扱い状況は、ドイツとイタリアでは、予定も含めると3分の2以上が利用等に積極的な姿勢を示していました。一方、フランスでは、予定との回答を合わせても半数に満たない結果でした。

その理由については、3か国とも「グルテンフリーだから」が多数ありました。2番目に多いのがドイツでは「小麦アレルギー、セリアック病の顧客用」、イタリアでは「低カロリー」「味(おいしい)」が続きました。フランスでは「グルテンフリーだから」以外は低い回答でした。

米国での利用・取り扱い状況は、将来予定を含めると3分の2を占め、理由は欧州と同様に「グルテンフリーだから」が最も多くありました。

 

利用しない理由は「割高」「よくわからない」

 

取り扱わない理由では、欧州ではドイツが「値段が高いから」があげられ、イタリアでは「米粉のことがよくわからない」が最多でした。

米国での利用等をしない理由は「米粉のことがよくわからない」「値段が高い」「米粉の種類が少ない」「米粉の代わりのグルテンフリー粉がいろいろある」があげられていました。

関心のある日本産米粉製品では、複数回答で欧州3か国では、「ノングルテン米粉(1ppm以下)」「グルテンフリー米粉(20ppm以下)」が押しなべて多く、玄米米粉がイタリア、オーガニック米粉がドイツで高くなりました。米粉食品では、プレミックス粉、米粉麺(ラーメン、パスタ、うどん)、米粉ピザに比較的人気が集まりました。

米国でもほぼ、欧州と同様な傾向となりました。

なお、今回の報告の最後に28年度の欧州プロモーション活動で、ドイツ、イタリア、フランス、スペインで調理デモを行い「試食会・商品説明・意見交換会」の講師を務めたCAP.Nの萩田敏常任理事から「米粉製品プロモーションで感じた点――米粉製品の輸出ポイント等」の紹介がありました。

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 米粉の魅力、期待、展望を語り合う

~10周年記念懇話会パネルディスカッション~ 

 

CAP.N10周年記念懇話会の第2部では、「米粉への期待と展望」と題して

各分野で活躍されているパネリスト4氏がパネルディスカッションを行いました。グルテンフリー食品やアレルギー対応食材が注目され、国産米粉製品の輸出が関心を呼んでいる中で、米粉の魅力と可能性について語り合い、参加した40人の会員らは熱心に耳を傾けていました。

【パネリスト】

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 「苦節10年」、「手探りの13年」

 

萩田:「自己紹介を兼ねて、皆さんから米粉への思いを聞かせてほしい」

 

涌井氏:「苦節10年。この10年間は非常に苦労した。特に8年間というのは米粉パン、米粉麺がうまく作れず、発芽玄米に添加物を使いながら小麦商品に似せようとやってきた。それが2年前に、テニスのジョコビッチ選手がグルテンフリー食品を食べて優勝したという話を聞き、初めてグルテンフリーという言葉を知った。そこで弊社の全商品をグルテンフリーに変えて営業した。国内展示会だけでなく、大潟村にも輸出促進協議会を作って海外の展示会にも2年間で15回ほど出展した。米国・ロスアンゼルスにも出向いたが、そこで驚いたのは日本の食材を日本で作ることに価値があると言われたことだ。これからは2020年東京五輪に向け、都内の有名ホテルなどはグルテンフリーを進めており、今後は間違いなく増えていくだろう」

 

小林氏:「岐阜で製麺業を営んでいる。弊社は小麦粉麺とグルテンフリー米粉麺がメーンで、全体の売り上げのうち、3分の1をグルテンフリーの麺が占めている。13年前からグルテンフリーの生麺を米粉うどんとして製造し始め、ここ3,4年でようやく動きが出てきた。5年前からはアメリカへの輸出に力を入れるようになったが、きっかけはJETROの紹介でニューヨークでの展示会だった。当時は私もグルテンフリーという言葉を知らずに、来場者に言われて初めて知った。手探りの中での13年間だった」

 

長谷川氏:「病院で子どもの食物アレルギーに15年間にわたり、管理栄養士として関わってきた。乳幼児の時点でパンや麺、ケーキを食べられるかどうかが、その後の食生活に影響を与えることは皆さんご存じのことと思う。かつてアレルギーの子どもを持つ母親は、特殊なアレルギー対応食材を苦労して探していたが、今は安心して使える米粉が一般的になってきたので、アレルギーのある子どもも、他の友達と同じものを食べられるようになってきた」

 

横田氏:「茨城県の龍ヶ崎市で水稲の生産、販売、加工に取り組んでいる。横田農場での私の仕事は、収穫した米を使って製粉し、身体にやさしい米粉のスイーツを作っている。グルテンフリーで添加物を使わない米粉100%のスイーツにこだわっている。いわゆる農家の6次産業化だが、一般に水稲農家の6次産業化は、揚げ餅やせんべいなどが主流の中、なぜ、洋菓子なのとよく訊かれる。子どもが6人いるので、安全、安心のおやつを食べさせたいと思ったが、最近の子どもはあんこが苦手で、和菓子を食べない。そのため、子どもが手に取りやすいシフォンケーキやロールケーキ、クッキーなどを作って販売している」

 

萩田:「食物アレルギー対応の面でも米粉は注目されているが、課題も含め長谷川さん、いかがでしょうか」

 

長谷川氏:「米は母親が子どもに与える上で安心感のある食材だ。しかし、アレルギー用食品としては課題があり、当初売り出した製品は正直なところ、たいてい2,3年で市場から消えることが多かった。需要が続かなければ、せっかく良い商品であってもスーパーでは継続して置かれない。しかし今は、グルテンフリーとして棚が確保されるようになってきていることは頼もしい。保護者にとって近くのスーパーで購入できることは、とても魅力的で非常に利用しやすい食材になっている。食物アレルギーのある子どもはどうしても小さい頃に和菓子を食べて育つので、大きくなって小麦が食べられるようになっても、習慣的に洋菓子を食べなくなる。逆に小さい頃から米粉を使った洋菓子に接している子は、小麦が食べられるようになってからも洋菓子をしっかり食べる。アレルギーがあってもなくても、美味しく食べられるのが米粉の魅力だ。ただ、グルテンフリーの基準が混在している問題もある。アレルギーを持つ子どもを抱える親にとっては、パッケージにアレルギー表示されていないレベルなら大丈夫なのか。コ―デックスが定めるグルテンフリーの基準20ppm以下なら良いのか。ノングルテン表示の1ppm以下なら良いのか、一般の方々には分かりづらい」

 

小麦の代替ではなく無限の可能性秘める

  

萩田「改めて米粉の魅力と新しい使い方の工夫、利用拡大への期待などを聞かせてほしい」

 

涌井氏:「私は米の消費拡大を目的に米粉を始めたが、出発点が間違っていたと思う。小麦粉に対する米粉ということで、ついハードルの高い食パンに向かっていった。本来、米粉はベーグルやあんパン、調理パン、サンドイッチパンなどに向いている。米粉が最も苦手な食パンの分野に入っていったのが間違いだった。米粉は、カレーのとろみ付けやソース、スープ類に使うほうがアレルギー対応の面で小麦粉と置き換えやすい。そうした小麦粉が使われていることが見えづらい分野に無限の可能性がある。ただグルテンが含まれていないから良い、ということだけではなく、もう一歩踏み込んで小麦粉と同等の機能性が持てれば、新しい世界が待っている。年間600万㌧の輸入小麦がある中で、米粉の新たな使い方が今ようやく始まったなあと思う。食パンではなく、ベーグルとか違った世界に発想を変えていかないといけない」

 

横田氏:「涌井さんがパンの世界では米粉と相性の良いパンがあるというお話しをされたが、ケーキの世界も全く一緒。お客さんは、街のパテシェが作る上等なケーキではなく、うちにわざわざ買いにくる。その理由は、やはり安心・安全を求めていることはもちろんのこと、小麦粉のシフォンケーキよりも米粉ケーキがしっとりしていて美味しいからと言われる。これは米粉の魅力であり特性だ。小麦粉に似せるのではなく、そうした米粉の特性を活かしたものを作っていくことが、今後の米粉の加工で重要になっていく。それでもまだ、天ぷら以外にも、スープのとろみ付けに良いなどの情報は知らない人が多いので、そうした米粉の魅力を発信できれば、一般消費者にもより広がっていくだろう」

 

長谷川氏:「米粉の使い方については、どうしても小麦粉で作った物を米粉でもやろうとしていて、結果的にうまくいっていない。小麦粉の代替ではなく、米粉ができることをもっと開拓していくべきだ。使い方の可能性を広げていくことも重要だろう」

 

輸出に追い風。コスト、認証に課題

 

萩田:「グルテンフリーがキーワードになっている米粉の輸出について、早くから取り組んでいる小林さん、いかがでしょうか」

 

小林氏:「米国への米粉輸出は5年前からだが、当初は商社がグルテンフリーを知らず、現地スーパーにグルテンフリーの棚があることすら知らなかったので、取り扱ってもらえなかった。そこで、まずはハワイのレストランに米粉麺を持っていく飛び込み営業を1,2年やった。その後、取り扱いたいという客を10社ほどまとめて、ようやく商社と交渉できた。(ハワイでの営業開始の翌年になる)4年前にロサンゼルスに子会社を作り、一般消費者に直接販売するため、アメリカのアマゾンに商品を出した。すると、そのレビューを元に品質や価格の改善ができるようになった。確かに日本製品の評価は高いが、やはり価格に問題があるという声が多い。日本で作ったものを送るので価格は高くなる」

 

萩田:「涌井さんはどうでしょうか」

 

涌井氏:「輸出するにはまだコストが高く、ハードルが高いが、ミックス粉の段階で言えば、マーケットは大きいと思う。弊社もアメリカの企業5社と輸出に向けた商談を進めており、今は最終調整の段階だ。秋口から輸出がスタートする見込みだ」

 

小林氏:「アメリカのグルテンフリー市場は前年対比140%で伸びており、各社から安価な商品も増えている。品質を追求していかないと残っていくことができないことを、身をもって感じている。弊社はパスタとラーメンを主に出しているが、圧倒的にラーメンのほうが売り上げは多い。ニューヨークの展示会ではパスタでスタートしたが、今やラーメンがパスタの10倍売れている。米粉はどうしても品質や原価の面で小麦粉と比べてしまい、もう少し安くならないかと思ってしまう。アレルギーを持っていないが、グルテンフリー的な食生活をしている日本の方からも(弊社の)麺は高すぎると言われ、彼らは価格が高すぎると、そうした食生活をすぐにやめてしまう。小麦の麺で育ってきており、それで十分生活できる。ただその半面、海外に目を向けると、先ほどお話しした通り、アメリカでは安価な商品が増えているため、差別化ができるようになった」

 

萩田:「欧米ではグルテンフリー食品が健康に良いということで成長しているが、輸出するには課題も少なくない」

 

涌井氏:「課題はグルテンフリー認証登録だ。ハラール、コーシャなどの認証もある。個別メーカーでは限界があり、日本米粉協会が国と話し合い、輸出認証ができればいいが。認証がないと商談のテーブルにのらない。特に欧州の場合は遺伝子組み換えが問題になる。それと更新がどうなるか課題だと思う」

 

小林氏:「我々は無添加の米粉麺やオーガニックの米粉麺を作ろうと取り組んでいるが、なかなか日本国内でまとまった量のオーガニック米粉用米を生産している農家はいない。コーシャやハラールなどの認証を含め、付加価値のある米粉が出てくると、海外に販売していく上で非常に強みになるだろう。それと、現在、岐阜にあるグルテンフリー工場は、頑張っても1日当たり6,000食程度しか作れず、輸出量を増やすのは難しい。これからは、工場を新設するか、原料を送って現地メーカーに作ってもらうかのどちらかで、弊社は後者の方向で今春から動き出している。アメリカの工場で製造すると、当然『メイドインジャパン』ではなくなるので、ポイントになってくるのは我々のブランドの価値を高める『グルテンフリーマイスター』を、『メイドインUSA』でもいかに高められるかが鍵だ。アメリカのお客に日本の米の安心感を理解してもらうよう、アメリカの市場を開拓していきたい」

 

萩田:「涌井さんも指摘したグルテンフリー輸出認証についてはどうか。欧州と米国では異なるが」

 

小林氏:「欧州の場合、日本の工場はHACCP認証とか欧州仕様にしないとハードルが高い。アメリカの小さなスーパーではGFCO(非営利団体のグルテンフリー認証機構)の取得は必要だが、意外にもホールフーズ、ウォルマート、クローガ―など大手・高級スーパーは、GFCOの取得は求めていない」

 

萩田「最後に米粉に期待することなどを」

 

横田氏:「米農家としては、米の消費量が減少している現状に歯止めをかけたい思いがある。実際に最近はお菓子の需要が増えている。米粉で作ったスイーツはしっとり感があり、米粉スイーツが米の美味しさや健康を再認識するきっかけになってもらえるとありがたい。家庭でも広まっていけば、と思う。一般消費者に対しては、小麦粉と違う米粉の新しい使い方について、もっと提案をしていきたい。CAP.Nや日本米粉協会が提唱している『用途別基準』への理解が広まれば、消費者が米粉を手に取る機会も増すと思う」

 

長谷川氏:「なぜ家庭で米粉が使いこなせないのか。1つは吸水性にある。レシピ通りに作っても失敗する。主婦目線でお母さんが家庭で使いこなせるような、手っ取り早く作れるような失敗しないレシピがあればと思う。例えば、米粉をとろみ付けに使うと小麦粉のようにダマにならない。料理の苦手なお母さんでも失敗しないようなレシピづくりをぜひお願いしたい」

 

涌井氏:「これからの米粉が抱える課題は、増えている飼料用米との兼ね合いだろう。米粉用米は買ってくれる人がいないと農家は作れないが、飼料用米はいくらでも売れるので、なかなか米粉用米を作ろうとはならない。私にとっては今年で米粉元年を迎えたと思っており、ようやく道が開き始めたと確信している。この2,3年で答えを出したいと思っている。日本人は白黒、赤白決着つけたがる。グルテンフリーというと小麦が悪いから小麦を食べない、と極端に走ってしまう。そういうことではなく、私は小麦の過剰摂取が駄目なのであって、小麦は少し減らしたら、控えたらいい、ということだ。それだと、グルテンフリーのハードルが低くなる」

 

萩田氏:「グルテンフリー、健康にいいというイメージがある米粉だが、これからは輸出も含め、米粉の需要拡大に向け、さらにステップしたいと思います。本日は、貴重なご意見、ありがとうございました」

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