米粉の素材としての特性と利用

1.はじめに

 昨今の世界の食糧事情は大きく変化しており、地球温暖化による異常気象で穀物の出来高に大きな不安がある一方で「穀物起源のバイオ燃料の活用」によって穀物資源を食糧・飼料業界とエネルギー産業が奪い合うという現象を引き起こしている。また、人口大国の経済発展に伴う食糧需要の増加もあってわが国の食糧の安定供給を脅かす事態となっている。

 

 一方、わが国の食糧事情はというと食糧自給率は年々減少しており、我々が口にする食品に関してはほとんどが輸入に頼っているのが現状である。

 

 このような状態の中、新規米粉を使った食糧自給率向上が叫ばれてはや10数年、当時は地産地消の国産米粉を使った米粉パンを学校給食に導入しようという動きから始まり、当社も新潟で始まった新規米粉・米粉パンの開発に携わらせていただき、まだ米粉食品がほとんど知られていない時から各社と共に米粉食品の普及活動を行ってきた。その結果、今では様々な地域で米粉パンが導入され、広く米粉パンが認知されるようになってきた。また、米粉パン以外にもロールケーキやシフォンケーキ、米粉麺などの米粉食品も徐々に普及し、その姿を見るようになってきた。消費者の米粉食品に対する認知度が上がってきており、流通業界も米粉食品に対する関心が高まっていることから、今後ますます米粉食品は普及してくるのではないかと考えられる。

2.お米の麺の開発

 米粉パンについてはすでに語るまでも無いと思うが、米粉パンが全国に普及してくるとパンと同じ「粉食文化」の代表である「麺」はできないのかという話が出てくるのはいたって当然のことである。米で麺を作る場合も、米粉だけでは麺にならないのでパンと同じように小麦グルテンを添加すれば形にはなるが小麦グルテン特有の臭気が目立ったり色がくすむなどの問題がある。またα澱粉を添加したり米粉を蒸練しても麺はできるが、乾麺にしないとα澱粉が老化し、生麺の状態での保存が難しいといった問題もある。そこで当社はつなぎ効果のあるものを複数配合し、尚且つ米の風味を損なわないよう各々のつなぎが最小添加量で効果が上がるように工夫した米麺用つなぎミックス「ヌードルバインダー1」を完成させた。

 

 ヌードルバインダー1のコンセプトとしてはご飯の様にもっちりした食感になること、白くて綺麗な光沢がありつるみのある麺に仕上がること、ミキサーの種類を問わず通常のロール製麺機で製麺できることが挙げられる。米粉の種類は選ぶことなく麺を作ることができるが、粗い米粉を使うと食感がざらついたものになり好ましくない。

 

 米の麺というとベトナムの「フォー」が有名であるが現地では鶏がらや牛テールのスープを使うなど様々な食べ方をしている。米麺も麺である以前に「ご飯」であるという認識から様々な食べ方を考えることができる。例えば冷汁うどん、冷しゃぶうどん等和風メニューは勿論、洋風のメニューにも合うので誰にでも食べ易く様々な食べ方が楽しめる。麺の形状も選ばず、うどんの様な太目の麺やフォーの様な平べったいつるみのある麺もできる。またコンビニで売られているような調理麺の形態でも製造する事が可能である。

3.様々な食品への米粉の利用

 このようにして米粉食品がパン・麺を中心に広がってきている訳であるが、他にも様々な食品分野で米粉が利用できる。その特徴としては下記のような事が挙げられる。
①口溶けがよくさらりとしたソフトな食感になる。
②水分を多く含む食品に対してはご飯のようなモチモチ感を与える。
③水分をほとんど飛ばしてしまう食品に対してはカリッとクリスピーな食感を与える。
④配合によっては小麦フリーの食品も製造することができる。

 

 米粉は小麦粉と違って粉の粒子が硬い為に充分水和せずに粒子として残る食品の場合はべたつきが少なく、クリスピーな食感を与えたりソフト感を与えたりする。それに対して水分の多い状態で完全に糊化すると小麦粉よりも粘度が高くなり、粘りが出る為ご飯のようなモチモチ感が出る。図のアミログラフを見てみると、小麦粉に比べると米粉の方がかなり粘度が高い事が分かる。また、糊を冷却しても老化し難く、小麦粉よりも滑らかさが保持できる事が分かる。

4.米粉利用食品の例

①ロールケーキ:最近ではかなり普及してきており、各所で米粉のロールケーキを入手する事ができる。その食感はしっとりとして尚且つ口溶けの良い感じに仕上がっている。

 

 

②シュークリーム:シュー皮とカスタードクリーム両方とも米粉で作る事が可能でシュー皮はサクッと軽くて口溶けの良い食感に、カスタードクリームはシュー皮同様口溶けのよい滑らかな食感になる。

 

 

③シフォンケーキ:小麦粉で焼いてもフワフワでとろける様な食感のシフォンケーキだが米粉を使うとひときわふんわりし、口溶けの良い食感になる。

 

 

④プリン:米粉を使ったことによるもっちり感と口どけの良さが共存する独特の食感になり、洋風・和風どんな風味にでも合う。

 

 

⑤たこ焼き・お好み焼き:大阪の粉物食品の代名詞であるが、米粉で作るとその食感は小麦粉よりもソフトで口溶けが良い。たこ焼きに関しては中がトロリとして冷めても硬くなり難いので冷たいダシに浮かべて食べる事もできる。

 

 

⑥肉まん:米粉特有のご飯のようなもっちり感の強調された食感となり、モチモチして良好な食感を示す。

 

 

⑦おやき:米粉パン同様グルテンミックスの入った米粉を使用して作る。小麦と違ってパサツキや口のなかでもたつく感じがなく、もっちりとした団子のような食感が楽しめる。

 

 

⑧餃子:麺用のヌードルバインダー1とは別のつなぎミックスを使う事によって餃子の皮を作る事が可能になる。揚げると皮がカリッとしておせんべいのような美味しさが味わえる。他、マドレーヌやクッキー、ラングドシャ、ホワイトソース等米粉の特徴を活かした食品が広く開発されている。

5.おわりに

 米粉の「粉食文化」への利用が叫ばれ始めて早10数年、今では米粉パンも色々なお店で購入できるようになり米粉食品は我々の身近なものとなってきた。また、食糧自給率の問題からも米粉は確実に使っていかなければいけない環境である。米粉食品の開発をしていく上では米粉の性質をよく理解した上で食感的な特徴を活かしていかなければならない。弊社もそのような観点から米粉食品の開発・普及に努めていきたいと考えている。

 

 また、古来から親しみ、食べられてきた日本人の心ともいうべき米をもっと広く、もっと手軽に、そしてもっと美味しく食べられるよう日々研究を重ねていく事が我々の使命ではないかと思う。